近所のボロアパートに住んでる職業不詳パチンカスの白石さん。たまに駐車場で友達?らしき人たちと花火とかバーベキューをやってるのを見かける。
駐車場でタバコを吸おうとしていた時に、ライターを貸してあげて以来懐かれていて、「今度友達と海行くから一緒に行こーよ!」と誘われた。
白石さんについては何もわからないが、悪い人じゃなさそうだしなんか面白そうだからと着いて行くことにする。明日朝九時に迎えに行くね~と言っていた白石さんは時間を過ぎても来なかった。別に近所だからわざわざ迎えに来なくてもいいが、今日一緒に遊ぶ他のメンバーとは面識がないこともあり、一応白石さんの家に向かった。玄関チャイムを鳴らすと、明らかに寝起きの白石さんが出てきた。
「んえぇ…ごめん寝坊しちゃったぁ・・・・。オェ…気持ち悪・・・・。」
「おい…白石…絶対二日酔いじゃん!」
クズ人間だろうとは思っていたけどやはりか。こんな男は敬称で呼ぶ必要もなかろう。
顔を洗って着替えている白石さんを待っている間、部屋で待たされていた。彼の部屋は想像していたよりも物がなくて、まるで引っ越して間もないような殺風景さだった。彼は結構前からここに住んでいたはずだ。もっと散らかっているものと思っていたので、私はなんだか拍子抜けした。
「お待たせぇ、カヨちゃん、準備できたよ~。行こっか。」
ビール6缶と煙草と家の鍵とスマホだけ持った白石さん。私もほとんど同じようなものだったので「カヨちゃんも身軽好きなタイプ~?お揃いだねえ!」なんて言われて、なんだかこの人とお揃いは嫌だな、と思いながら待ち合わせ場所に向かった。
そこには幼女、顔に傷のある男、毛むくじゃらの熊さんが待っていた。
「犯罪行為には加担したくないんだけど・・・・?」
と明らかに不審がる私に、白石さんは
「違うよぉ〜!こいつら顔は怖いけど怒らせなきゃ怖くないからぁ〜!」
などと間延びした声で言ってくるが、そんなことを言われると余計に恐い。
どうやら顔に傷のあるマッチョ、杉元さんのジムニーで海まで行くようだ。後部座席に座っている谷垣さんは、杉元さんから
「谷垣ィ〜アシㇼパさんが狭そうだろ?もう少し小さくなれないのか~?」
と精神的にも物理的にも詰められていた。
白石さんは途中で乗り物酔いして吐いた。二日酔いで長距離ドライブに挑むからそういうことになるんだよ。私も過去に同じような経験があることを棚に上げて白石さんを白い目で見ていた。
夏盛りの時期ではなかったので、海は人もまばらだった。海開きしていない時期になぜ海…?とも思ったが、みんな海を見て飛び上がるほどはしゃいでいたのを見るに、単純に海が好きなんだろう。BBQしたり、谷垣さんとアシㇼパちゃん以外はお酒も飲んだりして楽しんだ。(谷垣さんは帰りの運転手らしい。あの巨体が運転席に収まるのだろうか。)
みんな面白い人だったし、白石さんも私がアウェイで居心地悪くならないようにと気を使ってくれたおかげで楽しめた。
白石はこの一件を境にさらに懐いてくるし、気づいたら私の家にほとんど住んでいた。私のガードが甘いというよりは、おそらくこの男、どれだけガードが固くてもヌルっと心に入り込んでくるような、そういう器用さがあった。
仕事から帰ってくると、何食わぬ顔で
「おかえりぃ〜!お仕事お疲れさまぁ!ご飯にする?お風呂にする?それとも・・・・オ、レ?」
などと言ってくる。勿論白石とは付き合ってもいなければそんな関係ではない。ただの飯集りだ。
「いやどこから入ったんだよ」
「え~!秘密~!」
こんな会話があたりまえになってきていた。
白石のいる生活が日常になってきた頃。
『カヨちゃん、オレ旅に出るよ。今までありがとうね!』
意味不明な書き置きを残して、白石はある日突然消えた。
だから白石のいる日常を当たり前に思いたくなかったんだ。私の持ち物は煙草とライターと小銭だけでよかったのに、どうして入り込んできてしまったんだ。白石がいることが日常になってしまった私の部屋は、なんだか殺風景に感じた。
しかし、その2週間後には聞いたことも無い国からエアメールと変なキーホルダーが届いた。こいつ何やってるんだろう。
半年ほどたったある日、私が仕事から帰ってリビングの電気をつけたら炬燵で寝ている白石がいた。缶ビールの空き缶5缶を転がして。
「ちょっと、ひとんちで何飲んだくれてんの。」
「あイテッ!え!?あ、カヨちゃ~ん!おかえりぃ!ご飯にする?お風呂にする?それとも俺にする~?」
「うるさい、はやく空き缶捨ててこい」
白石が消えたあの日、殺風景なリビングで少しだけ泣いたことはこいつには教えてやらない。
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